青い、雲をつかむような。

身の回りのこと、自分のこと、考えたこと。それは、まるで雲のように。

彼女と、彼女のはなし。

 

ある日、彼女は二人になっていた。

 

 

授業中、斜め前の席に見慣れた同じような頭が二つ見えた時点で、なにかおかしいなとは思っていた。

授業が終わってから彼女の名前を呼ぶと、くるりと同時に二つの頭がこちらを向いた。

「「あっ、お疲れ~」」

綺麗に重なった声に瓜二つな顔。何が起きたか、一瞬理解ができなかった。

 

 

生協でお昼買って、三人で適当なところで食べる。

「え、今日どうしたの?」

「んっ?なにが?」

「なにが、って……。えっ、あの、双子、とかだったっけ?」

「あぁ、それはほら、ちょっと忙しかったからさ」

ピントのずれた答えにますます首をひねると、えっとね、と彼女は話し出した。

 

理系の学部生である彼女は、毎週レポートやらなんやらに追われて多忙な日々を送っているらしい。それで、今日はどうしてもお昼までの課題が終わっておらず、かといって午前の授業もサボれるものでもなかったらしく……。

 

「そんで、猫の手も借りたいな~って思って」

「えっ……じゃあまさか片方は猫が化けてるとか!?」

違う違う!!と彼女たちはけらけら笑った。

「これは、ただ私が二人に分裂しただけ!第一、猫が人間に化けるわけないじゃん」

「そーそー!」

「は、はあ……」

「それで、私が内職してて」

「私がちゃんと授業を受けてたってこと」

「ふ、ふぅん」

よく分からないけれど、彼女は今分裂してこのように二人になっているようだ。

 

分裂する、なんて考えたことも無かったけれど、彼女らの話を聞いていると別に特別な能力とかいうわけでは無いらしい。人間誰しも、本気を出せば分裂出来るんだとか。ちょっと半信半疑だけど。

すごく便利そうだなと思いそれを伝えたところ、色々不便なことも多いよ!と返って来た。

 

「効果は半日続くから、その間半径1m以内にいないといけないんだ」

「それ以上離れるとね、ポンって消えちゃうの」

「消えると記憶が引き継がれないから、意味無くなっちゃうんだよね~」

……へぇ。色々あるんだなぁ。

「あとね!それぞれ普通にお腹空くから、ご飯代は2倍かかるよ」

「同じものを食べないといけないとかはあるの?」

彼女たちが仲良く口にしているイチゴジャムパンを見ながら、そう聞く。

「いや?べつにそんなことはないよ。単に好みが一緒なだけじゃない?」

「そういえば分裂すると毎回同じもの食べてるね」

「当たり前と言えば当たり前だけどね」

つまり、思考回路も一緒だと。兄弟や双子でそんな話は聞くけれど、それ以上ってことだろう。

 

そんなことを考えて、ふと思いつく。

「じゃあ、ジャンケンとかしたらどうなるの?」

「「あー」」

二人の声が重なる。

「そういえばやったこと無かったね」

「よっしゃ!じゃあやってみよう!」

彼女たちは体を少し斜めにして向かい合う形になった。

「「最初はグー、ジャンケンポン」」

 

チョキとチョキ。見事に、あいこ。

 

あはははっと彼女たちの笑い声が響く。

「あーやっぱあいこかー!」

「そりゃそうかー!」

うん、確かにこれは想定内。問題はここからだ。

「これってさ、二人思考回路おんなじだから、このままジャンケン続けたら永遠にあいこなのかな」

「「たしかに」」

じゃあもう一回……。彼女たちはまたジャンケンを始める。

「「ジャンケンポン。あいこでしょあいこでしょ、しょ、しょ、しょ、しょ……」」

「うわぁ……すごいな」

さすが同じ人が分裂しているだけある。今までに見たことが無いほど、というかちょっと気味が悪いくらいあいこが連続する。

 

あいこが続いて数分経過した。さすがにそろそろ止めようかと思い始めていた時。

「「しょ……あっ!」」

何十、いや何百?回のあいこを経て、ようやく決着がついたみたい。

同じ人でもやっぱり限界はあるんだね、と言おうとした次の瞬間。

 

ポンッ

 

と負けた方の彼女がいとも簡単に消えてしまった。

「えっ?」

それはあまりにも急すぎて、残された二人はしばらく動くことが出来なかった。

 

 

 

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<あとがき>

折角書いたのにボツになってしまったお話を投下しました~

推敲が足りてないので色々粗削りなのはどうかご勘弁を。

 

これ一人称語りですけど、客観的に読んだ人は男と女どっちに感じるんだろう。純粋に気になる。